1973年に創刊されたハヤカワJA文庫の第1巻としてリリースされた『 果しなき流れの果に 』が、 ハヤカワJA文庫 のラインナップの中からSF作家第一世代の名作6点の一つとして復刊しました。
『果てしなき流れの果に』概要
『果しなき流れの果に』は『SFマガジン』1965年2月号から10月号にかけ、述べ10回に渡り連載された作品です(翌1966年出版)。
幻想的な緑の宇宙が作品世界を浮かび上がらせる見事な装画は、この前年の1972年の「復活の日」で小松左京を魅了し、その後、代表作「ゴルディアスの結び目」、「虚無回廊」をはじめ多くの書籍、さらに映画「復活の日」(1980)、「首都消失」(1983)、「日本沈没」(2006)のイメージボードやポスターアートも担当されてきた生賴範義先生です。
『果しなき流れの果に』は、『SFマガジン』1965年2月号から10月号にかけ述べ10回に渡り連載された作品で、発表からちょうど半世紀を迎える2015年に初の電子書籍化となりました。
長編としては『日本アパッチ族』『復活の日』『エスパイ』に続く、第四作となります。
1961年、『地には平和を』が早川書房の第1回 空想科学小説コンテスト努力賞を受賞して以来、『継ぐのは誰か?』『神への長い道』『見知らぬ明日』『日本沈没』『首都消失』『虚無回廊』など多くのSF作品を書き続けましたが、その中でも『果しなき流れの果に』と『ゴルディアスの結び目』は、今にいたる長きにわたって、SFファンの強い支持を受け続けている小松左京の代表作です。
・ 1997年 日本SFオールタイムベスト 1位 (『S-Fマガジン』500号)
・ 2001年 日本SF作家クラブ員が選ぶ国内SF作品 1位(『SF入門』)
・ 2006年 日本SFオールタイムベスト 2位 (『S-Fマガジ』600号)
・ 2014年 オールタイム・ベストSF 国内長編部門2位 (『S-Fマガジ』700号)
早川書房からのお知らせ
ハヤカワ文庫JA1500番到達記念復刊フェア 全国主要書店で順次開催中!(2021/10/21)フェアは終了しました。
10月刊『異常論文』の刊行をもって、ハヤカワ文庫JAが1500番に到達しました。
それを記念し、「ハヤカワ文庫1500番到達記念復刊フェア」を全国主要書店で順次開催中です。JAの初期ラインナップからSF作家第一世代の名作6点を復刊しました。イラストは各作家と関わりの深い方々のものを改めて使用、新デザインは岩郷重力さんです。
『果てしなき流れの果に』トピック
□宇宙と人類をテーマにしたライフワークの第一弾
『復活の日』(1964)、『継ぐのは誰か?』(1967)、『日本沈没』(1973)、『首都消失』(1983)など多くのSF作品を書き続けましたが、その中でも、『果しなき流れの果に』は、長きにわたってSFファンの強い支持を受け続けている小松左京の最高傑作とも称せられる作品です。
多くのSFファン、そしてSF作家の支持を集めた『果しなき流れの果に』ですが、小松左京はそのクライマックスの執筆にあたり、自ら生み出した壮大なビジョンによる自家中毒のような状態になり、連載放棄までも考え、最後には血を吐くほどの葛藤の末に完成させました。
それからホテルヘかえってまた書きつづけ、夏の夜が、しらじらと明けわたるころ、ようやく最後の一行を書き上げました。「完」の一字を書いた時には、全身気持のわるい汗と脂にまみれ、眼はあけていられないくらい痛み、指はしびれ、肩から後頭部へかけて、ギチギチ鳴るほど欝血していました。まったく、こんな苦しみが、この世の中にまたとあろうかと思われるほど、苦しい一夜でした。
『果しなき流れの果に』初版(早川書房刊)あとがきより
自我崩壊一歩手前までいったと言っても過言ではない「果しなき流れの果に」。しかし、同じあとがきの中で次のようにも述べています。
いつかもう一度、この主題について書こう、今度はもっと慎重に、もっと充分に準備して、体力や気力も充実させて、今度こそ、何一つ書きもらすことなく書いてやろう、という気が起ってきました。――その時はじめて、本当に、SFというものが全身でぶつかって行ってもいいほど、やりがいのある仕事かも知れない、という気がしてきました。
ですからこの作品は、次の作品へのエスキースと考えていただいてもけっこうです。
早川書房『果しなき流れの果に』(初版1966年)あとがきより
エスキースとは、単なる下絵、スケッチを意味します。
『果しなき流れの果に』は、読者の方々に、そしてこの宇宙に示すべきビジョンに至っていない、すなわち自ら納得した完成品でないと宣言したのです。
この後、小松左京は、『果しなき流れの果に』に連なる、宇宙と人類進化に係る作品を次々と発表します。
「神への長い道」(一九六七年)、「結晶星団」(一九七二年)、「ゴルディアスの結び目」(一九七六年)が、もっとも関連深い作品とされ、小松左京も、その点を指摘しています。
作品の系譜としては「神への長い道」(一九六七年)、「結晶星団」(一九七二年)、「ゴルディアスの結び目」(一九七六年)、『虚無回廊』(一九八六年~、未完)へとつながるわけだが、僕としてはこのテーマに関しては、ずっと「未完」という思いがある。
広大な宇宙の中でなぜこの地球に生命が生まれ、人類が生まれたのか。それは宇宙にとってどんな意味があるのか―― つまるところ、この問題意識が、『果しなき流れの果に』以来の、僕の最大のテーマだった。しかし当たり前だがその問題は大きすぎて、そう簡単に答えが出せるものではない。あれこれ考えたり、面倒で放り出したりしているうちにこの歳になってしまった。
SF魂(新潮社)より
『果てしなき流れの果に』にはじまる、宇宙と人類をテーマにした小松左京のライフワークともいえる一連の作品群は『虚無回廊』で完結を迎えるはずでした。しかし、小松左京が2011年に亡くなったため、残念ながら未完のままで遺作となってしまいました。
2016年、既にテキスト化されている小松左京作品の全テキストデータを、公立はこだて未来大の松原仁教授らのグループに提供し人工知能による作家誕生プロジェクトに活用いただいています。
将来研究が進めば、思わぬ形で『虚無回廊』の完結編が世に出ることになるかもしれません。
□没後発見された創作メモ
2015年、平成ゴジラシリーズや「さよならジュピター」の特撮を担当されていた川北紘一監督が検討していた小松左京原作のテレビドラマ『宇宙人ピピ』(1965)のリメイク企画をきっかけに、『果しなき流れの果に』の創作メモが発見されました。
見つかった創作メモは、“なぜ過去をかえては行けないのだ?”、“眞の時間旅行が可能になればエネルギー保存則がやぶれる”などクライマックスに関する重要なキーワードが記されていましました。