小松左京作品の全テキストデータを人工知能研究に提供しました(2016年レポート再掲載)。

小松左京ライブラリは、既にテキスト化されている小松左京作品の全テキストデータを、公立はこだて未来大の松原仁教授らのグループに提供し、人工知能研究に活用いただいています。

松原仁教授らのグループは、星新一先生のショートショートを基に、文学賞を獲得できるようなショートショートを創作する人工知能プロジェクト「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」を2012年から進めていますが、その研究の一環として、小松左京作品の全テキストデータを提供しました。

小松左京生誕85年、そして没後5年にあたり、お知らせさせていただきます。

提供しているテキストデータは、『日本沈没』『首都消失』『果しなき流れの果に』といった長編に加え、ショートショート、エッセー、また、阪神淡路大震災の取材記録である『大震災‘95』や、1970年の大阪万博、1990年の国際花と緑の博覧会の詳細をつづった「巨大プロジェクト動く」など多岐の作品にわたります。

<星新一先生との関係>

松原仁教授らのグループは、2012年9月から、ショートショートの神様といわれる星新一先生の1000作品を解析し、それを基に人工知能に文学関連の賞を取るほどの小説を創らせる「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」を進めており、昨年、2015年には、そのAIが創作した作品を理系的発想力を問う文学賞である第3回星新一賞にエントリーしました(結果発表は2016年3月)。

小松左京は、SF作家としてデビューして以来、星新一先生と深い親交があり、その作品、人柄ともに敬愛していました。

星新一先生のショートショートとは色合いが異なる『日本沈没』『首都消失』といった災害シミュレーション的な物語や、『果しなき流れの果に』『虚無回廊』といった長編ハードSFなどの小松左京作品も解析に加えていただくことで、「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」がより発展されることを願い提供しました。

「星新一先生と小松左京」(小松左京 画)

<人工知能の長編執筆への足掛かりに>

人工知能による小説作りは、作品が長くなればなるほど、難しいと言われています。

AIがショートショートで賞を取れるほどのレベルに達した場合、新たな目標は、長編作りとなります。

小松左京は、ショートショートから、中篇、長編と、様々なジャンル様々な長さの作品を残しています。

また、『日本沈没』や『首都消失』といった作品を書く際には、そのプロットやアイデアを反映させた、いわば長編のための試作品的な短編や中篇を執筆しています(『日本沈没』なら「日本漂流」、『首都消失』なら「物体O]や「アメリカの壁」等)。

このような作品群を相互に解析することで、AIのショートショート執筆の研究から、中篇、長編執筆という進化にも役立てていただけるのではないかと考えます。

 <小松左京の未完のライフワーク作品完成への願い>

小松左京には見果てぬ夢がありました。

SF作家デビューの直後から一貫していだきつづけた夢であり、人類と宇宙の進化の果を見極めようとする壮大なもので、まさしくライフワークでした。そして、それを物語として完成させたいとの願いをもっていました。

SFファンの人気投票で常に上位にあがる『果しなき流れの果に』や、コズミックホラーとして評価の高い「ゴルディアスの結び目」など、自らのあらゆる作品の要素を取り入れつつ、それを凌駕するような大長編の構想でした。

その想いを晩年、次のように語っています。

七十七歳。もう残りの時間が少ないと思うと悔しくなる。やりたいこと、やるべきことがまだたくさんあるのだ。人類史と地球史をSF的な視野でダイナミックにとらえ直して作品に結実させたい。私が長年取り組み、まだ果たせない念願だ。

「小松左京自伝」(日本経済新聞出版社)2008年発行より

この長年取り組んだライフワークの結晶であり、遺作となった未完の大作が『虚無回廊』でした。

作者、小松左京の分身といえる、主人公・遠藤秀夫は、自らの人間としての限界を超えるため、自身の人格のコピーであり、人工知能AIも越えた存在、人工実存AEを生み出し、宇宙のあらゆる知生体にとって謎である長さ2光年、直径1・2光年の超巨大物体SSの探査に向かわせます。

命の限界を感じた小松左京は、『虚無回廊』の主人公に自分自身を投影させ、その主人公の人格を基にした新たな存在のAEにミッションを託すという物語を創造しました。

しかし、『虚無回廊』は完成することなく、小松左京は2011年7月26日に亡くなりました。

ハルキ文庫「虚無回廊」

この作品は多くのSFファンの方の支持を得ており、また、堀晃先生が、2011年に「巨星」(年間SF傑作選 「拡張幻想」 収録)、瀬名秀明先生が、2012年「Wonderful World」、2013年「ミシェル」(共に 「新生」 収録)という『虚無回廊』をオマージュした素晴らしい作品を発表されています。

物語は、作者の思想、感情のエッセンスともいえる存在です。

それを人工知能AIが読み解くことが出来れば、オマージュ作品とは異なる、より作者の意志にそった物語を創造することも可能ではないでしょうか?

人工知能による作家誕生を目指すプロジェクトが小松左京の物語の解析を進め、成果が出た暁には、物語の完結という形で小松左京の見果てぬ夢に終止符が打てるかもしれません。

小松左京の遺作をトレースした現実のAIが物語を完結させる。

そんな空想と現実が一体となった世界が、いつか実現することを願っています。

『虚無回廊』電子書籍版(徳間書店)

表紙イラスト 生賴範義

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