「宇宙人ピピ」は、円盤に乗ってやってきた小さな宇宙人ピピと子供たちとの交流を描く、ほのぼのとしたSFドラマという印象がありましたが、小松左京の遺品整理の際に見つかったシナリオや小松自身の証言などを基に、本当はいかに破天荒な作品であったかを紹介します。

そして、星新一先生のシンボルマークともいえる”ホシヅル”が「宇宙人ピピ」に登場しているとの情報が以前よりありましたが、今回初めてその脚本が確認できました。併せてご紹介します。

宇宙人ピピ34(星鶴登場)NHK資料提供

【宇宙人ピピ概要】

「宇宙人ピピ」は1965年4月8日から1年間にわたってNHKで放送された日本で最初のアニメと実写の合成テレビドラマです。 1965年4月8日(木)〜1966年3月31日(木)(全52回) 18:00〜18:25 作 小松左京 平井和正 ピピの声 中村メイコ   【現存するのはたった2本】 「宇宙人ピピ」は、1年間放送され全部で52本あったとされています。 しかし、残念なことに、現存するのは第37回(1965年12月23日放送)と第38回(1965年12月30日放送)の2本のみです。 08036AA_1

第38回はDVD『懐かしのこども番組グラフィティー 夕方6時セレクション1』に収録。

第37回・第38回共に、NHKの「番組公開ライブラリー」で視聴が可能です。

    【残されたシナリオと青写真】

「宇宙人ピピ」の映像は、ほとんど失われましたが、沢山のシナリオやシナリオ準備稿、 また、貴重な当時の設定資料が遺品の中にありました。 青図や美術デザインは、小松左京が自宅でシナリオを書く際に参考としていたのかもしれません。

 宇宙人ピピ(山中家イメージ)

<山中家 勉強部屋>

NHK資料提供

  <宇宙人ピピ誕生経緯>

【中村メイコさんとピピ】

中村メイコさんとの対談で、小松左京はピピの誕生経緯を以下のように述べています 小松:あれは『南部の歌』という、ディズニーのアニメーションと実写を組み合わせた可愛いのがあってね。NHKの若手のDたちが、ああいうのをやろうというので、僕に聞いてきた。「じゃ、こういうのはどうだ」といって、ざっとドラフト書いて、第一稿、第二稿渡して、大体OKになった。「なにかご希望はありますか」と言われたので、「いや、僕はあったことないけど、声をメイコちゃんがやってくれるとうれしいな」と言ったら、あなただったんですね。音楽は冨田勲君で、これも初めての付き合いだった。 「威風堂々うかれ昭和史」(中央公論社)より。   中村メイコさんは、ピピの声だけでなく主題歌もうたい、また同じ1965年にフジテレビの水曜信託劇場の小松左京原作「ご先祖様バンザイ」に、フランキー堺さんや納谷五郎さんとともに出演しています。デビュー間もない小松左京のテレビ作品二つに出演していただいたわけです。

 

【平井和正先生との夢のSFタッグ】

宇宙人ピピは、「作・小松左京 平井和正」となっています。 これに関しては、小松左京マガジン10号で以下のようなエピソードが紹介されています。 当時はFAXもなく、大阪から原稿を送るのにも書留郵便を使っており、週一の放送をこなすのに一人では万一の時に危ない。そこで、前年に「エイトマン」でテレビアニメを経験していた平井和正先生にバックアップを頼んだとのことです。 これにより、小松左京、平井和正先生の夢のSFタッグが実現しました。

 

【音楽は冨田勲先生】

音楽は、NHKの人形劇で「宇宙船シリカ」(1960年・星新一先生原作)、「銀河少年隊」(1963年・手塚治虫先生原作)を担当した冨田勲先生。 この後、1969年の小松左京原作の「空中都市008」でも音楽を担当してくださっています。 1979年の日本武道館で開催された、冨田勲先生のピラミッド・サウン立体音響ライブ「エレクトロ・オペラ in 武道館」は、小松左京がプロデュースしました。 (ファッションショー、コンピュータ・アニメーション、5チャンネル(+1ch)のピラミッド・サウンド・システムによる立体音響を合わせた21世紀を先取りしたかのようなイベントでした)

 

【コミック化は石ノ森章太郎先生】

「宇宙人ピピ」の番組を基にコミック化をしていただいたのは、この頃、サイボーグ009を連載していた石ノ森章太郎先生。 「宇宙人ピピ」の漫画は、石ノ森章太郎先生、平井和正先生、小松左京による何とも豪華な作品です。 小松左京が石ノ森先生とお仕事で関わったのは、この「宇宙人ピピ」のコミックが初めてで、後にホラー作品の「くだんのはは」を素晴らしい形で劇画化してくださいました。 そして、平井和正先生と石ノ森章太郎先生は、1967年に、あの不朽の名作「幻魔大戦」を生み出されました。

ピピたのしい幼稚園1965年11月号_ページ_1 (1)たのしい幼稚園(講談社)1965年11月号より

(C)石森プロ

  <脚本分析による宇宙人ピピ>

【ピピの能力】 ざっと地球より100万年は科学が進んだ星から来た宇宙人(いたずらな妖精のような雰囲気)。 円盤投げの円盤のサイズ(直径20センチほど)の宇宙船に乗ってやってきました。 ・時間や空間をいっぺんに飛び越えられる(「果しなき流れの果に」みたいです)。 ・「ちょいとした座標軸の変換」で子供たちを小さな宇宙船のなかに招待できる。 ・時間を進めたり巻き戻したりもできる。 ・姿を消すこともできる。 ・宇宙船の燃料は無補給で200年は走行可能。 ドラえもんのように夢のような科学で子供たちを助けるというより、常識のなさと超科学力でとんでもない事件を起こし周りを困らせるタイプ。 「火星人ゴーホーム」の破壊的なイタズラ好きの火星人か、最近でいえば漫画の「ケロロ軍曹」に近い存在です。 小松左京作品でいうと同時期に連載されていた、「明日泥棒」(1965年1月〜7月「週刊現代」)のゴエモンがキャラクター的にはかぶっています(妖精型のピピに対し、ゴエモンは山高帽に上はモーニング、下は袴でチョビ髭をたくわえた親父姿)。

【小松左京作品と宇宙人ピピ】 宇宙人ピピは、ゴミゴミした東京を野原のようにしようと、東京そのものを吹き飛ばそうとしたこともありました(まるで大友克洋先生の「アキラ」です) この辺りは、ただうるさいとの理由で音を世界から消してしまう「明日泥棒」のゴエモンを彷彿とさせる無茶苦茶ぶりです。   人のいない世界を夢の中に創り出すエピソードは、世界中から人が消える「こちらニッポン」や、大人たちだけが消え子供たちで対応せざるを得ない「お召し」を彷彿とさせます。 ドリームマシンで入りこんだ夢の世界は、インフラが全くないので、必要に応じて発電所や水道用のダム、道路まで作ってかなければならず、半世紀も前の作品ながら、バーチャルリアリティーのゲーム世界のようです。   水不足を解消しようと、間違ってお酒(アルコール度15度の合成清酒)を水道水にした結果、大騒ぎとなり、大目玉をくらったピピは、ならば酒の分子を分解すればいいんだと、ダムに物質分解機を投入。するとお酒どころか水そのものの分子が分解されダムは干上がってしまい、さらには干上がったダムの底の岩盤の分子までも分解が進み、地底のマグマが吹き出しそうになります。マグマを止めて、何とか水を確保しようと空間チューブで南極から氷を運ぶもこれまた失敗。最後は、過去の世界から雨を集めてきます。

「極冠作戦」や空中都市008の「北極圏SOS」のアイデアに通じるエピソードです。 *「北極圏SOS」のエピソードはこちらから。   主人公の子供たちの語学の勉強にと、世界中から各国の子供を連れてくるエピソードでは、さらわれた子供たちが、当時実際に活躍していた、ソビエトのコスイギン外相、中国の周主席、アメリカのジョンソン大統領の息子たちであることがわかり、大騒ぎになります。実は「時間エージェント」のエピソードに、この回とそっくりなものがあります(1966年 HEIBON パンチ DELUXE掲載「誘拐大作戦」)。 今回確認したのは打ち合わせ稿なので、放送の際には各国元首の実名ではなかったかもしれません。 いくら大らかな時代とはいえ、実際の国家元首や重鎮の名前を出してその子供をさらってくるというエピソードの放送は難しかったのでは? いや、でも、ひょっとしてその辺りはスルーして放送されたかも……。 放送用フィルムは現存せず、今となっては確かめることはできませんが。 「宇宙人ピピ」は、小松左京の創作活動における実験室のようなものだったのかもしれません。

 

【星新一先生がモデル?星野新介】 売れない漫画家で何度もピピの騒動に巻き込まれる星野新介なる人物が登場しますが、 この名前、どうやら星新一先生がモデルのようです。 同じころ、手塚治虫先生のW3(ワンダースリー)の主人公として星真一が登場しているので、1965年の二つのSF番組に、星先生の名前にちなんだキャラクターが登場していたわけです。 星野新介登場

<宇宙人ピピ 第33回シナリオ・星野新介登場シーン>NHK資料提供

    <発見!ホシヅル登場回の脚本>

星新一先生のシンボルともいえる”ホシヅル”は、1965年にスナックで、星新一先生、筒井康隆先生、平井和正先生、豊田有恒先生、大伴昌司先生、そして小松左京が飲んでいるとき、星先生がお店でサインを求められて描いたものとされています。ほしづる

画像提供:星ライブラリ

ホシヅルや星新一先生のお話は、星ライブラリでどうぞ。

  宇宙人ピピ第34回、1965年11月25日の放送の脚本にホシヅルの騒動が描かれていたので、スナックで誕生してすぐに アニメに登場したことになります。 ちなみに、ホシヅルの命名は小松左京だともいわれていて、また、星先生が亡くなった後、小松左京が発起人となり、9月6日(星先生の誕生日)を「ホシヅルの日」に制定しました。 フィルムが紛失しているので、実際、どんなアニメだったのかは謎ですが、今回確認できた打ち合わせ稿により、「宇宙人ピピ」に登場するホシヅルの様々な生態が判明しました。 ・ピピの母星で飼われている。 ・ピピにはお弁当を届けに地球にやってきた。 ・鳴き声は「ミャーオ ミャーオ」(子供には「ニャーニャー」と聞こえます) ・何でも食べて、そのまま卵にして生んでしまう。 ・地球から帰る際に、ヒナヅルを生み残す。ヒナヅルは最後に番組の「つづく」の文字も食べて卵にしてしまう。2星鶴登場

<宇宙人ピピ 第34回シナリオ・星鶴登場シーン>NHK資料提供

<愛猫ピピ>

小松左京の晩年に迷い込んできた猫が、耳と頭ばかり大きく宇宙人っぽい猫だったので、「宇宙人ピピ」にあやかりピピと命名されました。 小松左京は「老いては猫に従い」をモットーに、このピピ猫と仲良く過ごしていました。

小松左京と愛猫ピピ<愛猫ピピと戯れる小松左京>