今なお、世界最強の力を誇る超大国アメリカ。

世界の盟主たる自負には、同時に限りない責任が伴います。

地球外生命体による大侵略に晒されてなお、自らの立場に固執し、いがみ合う国々。

そのような状況を打破し、人類の反攻作戦をすすめるために、己が身を削り葛藤するアメリカ合衆国大統領。

小松左京の「見知らぬ明日」では、そんな苦渋に満ちた大統領の姿をリアルに描いています。

 

 大統領は、この所ほとんど寝るひまがなかった。――国府の国連代表から、さらに外務省に、政府首脳部に、米国は決して国府をさしおいての政治的取り引きにはいっているわけではないこと、大陸中国との接触は、単に軍事的な情報交換を目標とするだけであって、それも打診段階にすぎないこと、しかし、アメリカは、「大国の責任上」、あらゆる努力をはらって、地球人類が「未知の勢力」に対処するための準備をおこなわなければならないこと、などをのべて弁明と説得にあたらねばならなかった。
 電話、書翰、面談と、いやが上にも激務をかさね、日に日に憔悴して行く大統領の顔を見るにつけ、レストン秘書は、胸のふさがる思いを味わうのだった。
(なぜ、大統領が、こんなに苦労しなければならないんだ?)
レストン秘書は、執務室の椅子で仮睡する、げっそりとやつれた大統領の顔を見ながら、思わず――わかっていながらも思わず――つぶやかざるを得なかった。
(なぜ、アメリカが、こんなに一人で苦労しなければならないんだ? ほうっておけばいいじゃないか! 赤い中国も、ソ連も、宇宙人にやられてしまえばいいんだ。アメリカは、自分の国と、友好諸国だけをまもってやれば……)
 若いアメリカ――若くて、世界一豊かで強力なアメリカが、かつて何度も自問した同じ問いが、若い秘書官の胸にまたうかんだ。
――なにがしかの善意にはじまって惨憺たる結果に終ったいくつかの戦争、まぎれもない理想主義が口火を切りながら、最後には、貪婪な力がすべてを奪い去り、当初の理想をだいなしにしてしまう……。「強さ」自体が、今やアメリカの根ぶかい疾病になってしまっているのだった。

 

 

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 「見知らぬ明日」(KADOKAWA)

小松左京が描く超大国アメリカと合衆国大統領の真実とは?