小松左京のSF最高傑作ともいわれる『果しなき流れの果に』創作メモが、

NHK『宇宙人ピピ』の台本裏から半世紀を経て発見されました

  ピピ表紙

<「宇宙人ピピ」台本 1965年10月14日放送分>

 

2014年12月5日に亡くなられた、川北紘一監督が亡くなる直前に検討していた『宇宙人ピピ』の新たな映像化企画をきっかけに、残っていた半世紀前の『宇宙人ピピ』オリジナル台本を調べた結果、その裏ページから 小松左京のSF最高傑作『果しなき流れの果に』の創作メモが発見されました。

1965年、『果しなき流れの果に』をSFマガジンに連載中、小松左京は、自らが描こうとした壮大なイメージに追い詰められて連載放棄まで考え、さらに最後にはストレスのため血を吐くほどの状態になりました。

今回見つかったのは、そのクライマックスに関する重要な創作メモです。

 

メモには『果しなき流れの果に』の物語に反映する、以下のような言葉が書きつけられています。

 

なぜ過去をかえては行けないのだ?

眞の時間旅行が可能になればエネルギー保存則がやぶれる

何度もフィードバックする

同じ世界へ

<発見経緯>

2014年11月、平成ゴジラシリーズや、小松左京原作の『さよならジュピター』の特技監督である、川北紘一監督が代表をつとめる、株式会社ドリーム・プラネット・ジャパンより、1965年にNHKで放送されていた『宇宙人ピピ』のリメイクを企画したいとの打診があり、その資料提供のために、現存していた約40冊の『宇宙人ピピ』の台本を精査しました。

台本には作品検討の際の様々なメモ書きや、スケッチなどが残されていましたが、中に子供向け番組とは関係のないSF作品の創作メモらしきものが見つかりました。

それが書かれた時期や内容から、小松左京のSF作品として最も評価が高い『果しなき流れの果に』の創作メモの可能性があり、作品と当該メモとの比較、過去のエッセーや本人インタビュー、また当時の関係者の証言により、このメモ書きが、『果しなき流れの果に』のものであることが確実になりました。

 

<「果しなき流れの果に」概要>

『果しなき流れの果に』は、『SFマガジン』1965年2月号から11月号にかけ、述べ10回に渡り連載された作品で、2015年の今年、発表から半世紀を迎えました。

恐竜が闊歩する中生代白亜紀の地層から発見された無限に砂が流れ続ける謎の砂時計をきっかけに、10億年を超える時間の中、進化を管理しようとする超越者とそれに反抗する者たちの姿を描いた長編SFです。

小松左京は『日本沈没』『復活の日』『首都消失』『エスパイ』など、様々なSF作品を書いてきましたが、『果しなき流れの果に』は、SFファンやSF作家の皆さんに強く支持され、小松左京のSFにおける最高傑作と位置づけられています。

・1997年『SFマガジン』500号記念「オールタイム・ベストSF」国内長編1位

・2006年『SFマガジン』600号「オールタイム・ベストSF」国内長編2位

・2014年『SFマガジン』700号「オールタイム・ベストSF」国内長編2位

 

・2001年『SF入門』(早川書房刊)、初の日本SF作家クラブ会員によるアンケート

「オールタイム・オールジャンル・ベスト」国内作品1位

 

時間と空間を超えた舞台、人類と宇宙の可能性、超絶した存在とそれに抵抗する者といった要素は、小松左京自身の作品で繰り返され、また多くのSFやコミック、アニメーションに影響を与えました。

『果しなき流れの果に』初版のあとがきで小松左京は、書けば書くほど気が滅入り、連載放棄まで考えたと述べ、自らが喚起したイメージに自分が参ってしまう、自家中毒的な現象が起こったのではないかと分析しています。

 

本作品は1965年に開催されたSF大会の宿泊先のホテルで書き上げましたが、その際のことを次のように書いています。

それからホテルヘかえってまた書きつづけ、夏の夜が、しらじらと明けわたるころ、ようやく最後の一行を書き上げました。「完」の一字を書いた時には、全身気持のわるい汗と脂にまみれ、眼はあけていられないくらい痛み、指はしびれ、肩から後頭部へかけて、ギチギチ鳴るほど欝血していました。まったく、こんな苦しみが、この世の中にまたとあろうかと思われるほど、苦しい一夜でした。

 『果しなき流れの果に』初版(早川書房刊)あとがきより

 

<幻となったアニメ化>

『果しなき流れの果に』は、2000年に、ガンダムシリーズの富野由悠季監督によるアニメ化も企画されましたが、実現には至りませんでした。

 

<宇宙人ピピ概要>

『宇宙人ピピ』は1965年4月8日から1年間にわたってNHKで放送された、日本で最初のアニメと実写の合成テレビドラマで、その放送時期と『果しなき流れの果に』の連載時期がかなりの部分で重なっています。

小松左京が原案脚本を担当しましたが、1年ものドラマ作品を書くのは初めてであり、週一の放送をこなすのに一人では万一の時に危ないとの理由で、『エイトマン』でテレビアニメを経験していた平井和正先生に応援をお願いし、小松左京、平井和正先生の夢のSFタッグが実現しました。

ピピの声は中村メイコさん、音楽はシンセサイザーの世界的権威で、『リボンの騎士』など数多くのテレビや映画音楽で手掛けてきた冨田勲先生。

ざっと地球より100万年は科学が進んだ星から来た宇宙人ピピが、ドラえもんのように夢のような科学で子供たちを助けるのではなく、常識のなさと超科学力でとんでもない事件を起こし周りを困らせるお話です。

全52話が放送されましたが、現存する映像は2話分だけです。

 

 

 連載時期

<創作メモ分析>

スライド2

<創作メモ部分>               <創作メモ書き起こし>

 

「歴史を変えて、なぜいけない?」野々村は、ホアンの顔をじっと見つめた。「おれたちの時代の人間は、幼児時代に、けだものの段階をおえるように、教育される。しつけによって、できるだけ早い段階に、野獣性を矯正されるんだ。歴史に対して、それをやってなぜいけない?――そうすれば、人類は、はるかに短い期間内に、野獣状態を脱し、一万年かかって達成できた歴史が、百年で達成できる」

(中略)

「で、その先は?――」ホアンの顔は青ざめていた。「スメールの時代に、原爆をつくり、ネブカドネッサルが、人工衛星をとばしてもいい。だけど、その先は?――歴史はうんと変ってくるぜ」

「変った歴史を、またフィードバックする」野々村はいった。「何度もやるんだ。過去を何度も改造し、修正し……

「ルキッフがいつかやろうとしていたことは、それか――やろうとしていながら、監視がきびしくて、せいぜい思わせぶりなしるしを撒布したにとどまり……」ホアンは、つぶやいた。「だが、それは、歴史を短縮するだけのことじゃないかな?」

『果しなき流れの果に』より、創作メモ反映箇所(赤字部分

 

森 優(南山 宏)先生コメント

「一貫して、文学における宇宙の意味、宇宙における人類の意味を考えてきた」(『小松左京自伝』)

ファンのヒンシュクを買うかもしれないが、〝SF作家小松左京〟を〝発見〟したのは私、と勝手に自慢させてもらっている。まだ駆け出しの編集者時代にSFコンテスト応募作品の粗選り作業中、『地には平和を』の封筒を破って日本で初めて小松作品を読むというまたとない幸運に恵まれたのが、この私だからだ。

こりゃスゴイと特Aマークをつけたのに、選考委員の先生方のお眼鏡には適わず、けっきょく選外努力賞にとどまったが、後日直木賞候補になったときには、心中で快哉を叫んだものだ。もしあのとき私がボツにしていたら――小松さんはこの短篇に描かれた日本と同様、少しばかり異なる世界線を辿ることになっただろう。

以来SFマガジンにほとんど毎号のように載る小松作品を、私は立場上の特権で(?)いつも真っ先に読んでは毎作唸らされたが、何といっても私にとってのオールタイムベスト長篇は『果しなき流れの果に』で、これは当時も今も変わらない。小松さんがつねづね書いたり口にした(じかに聞いたこともある)「SFは宇宙における人類(人間)の意味を探る究極の文学」そのものだからだ。

 

堀晃先生コメント

1965年、小松さんが『果しなき流れの果に』をSFマガジンで連載しているころ、小松さん監修の5分間のSF人形アニメシリーズの企画がありました。毎日、帯で放送するとあって、相当な数の脚本が必要であり、『果しなき流れの果に』の舞台にもなっていたグランドホテルで、眉村卓さんも参加し、何度か徹夜の企画会議をしました。

その席で、小松さんが出していた、蟻やネズミが進化するというアイデアが、連載中の『果しなき流れの果に』にすぐに生かされていて感心したこともありました。

そんな企画会議のある日、たしか、7月上旬だったと記憶していますが、トイレから出てきた小松さんが、ボソッと「ちょっと血を吐いた」と呟いたのを覚えています。

その時は、「あまりにも多忙のせいで体調を崩したのかな、流行作家も大変だな」ぐらいにしか思っていなかったのですが、今では、『果しなき流れの果に』という作品が、小松さんを追いつめた結果ではないかと考えています。

 

 

<電子書籍版「果しなき流れの果に」に解説とともに掲載>

4月25日に配信開始された角川文庫・小松左京電子書籍コレクション果しなき流れの果に』に、創作メモの精細画像とその解説が特別に掲載されています。

*調査の結果、『果しなき流れの果に』の創作メモであることが確実となったため、急遽掲載を決めたものです。

無題

©生賴範義

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