小松左京と鰻にまつわるエピソードです。

(テキスト担当による蛇足ならぬ、鰻足つきです)

 

「小松左京自伝」(日本経済新聞出版社)の自作を語るから。

平安三部作

――平安三部作の「応天炎上」(一九七一)、「遷都」(一九七三)、「糸遊」(一九七五)についておうかがいしたいんですが。

小松  あのころウナギの値段がめちゃくちゃ上がったんだよ。

――ウナギの値段?

小松  そう。それで中国からの輸入が始まる。そのとき何で土用の丑の日にってことから、ウナギはいつごろから食ってたんだろうって調べはじめたら万葉集にあった。

大伴家持に「いはまろに われものまをす なつやせに よしといふものぞ むなぎとりめせ」って歌があるんだ。大伴家持ってのは八世紀。大伴氏は陸軍の大部族なんだけど、そのころもう食ってる。どうやって食べたんだろう、醤油はあったんかいって調べたら、醤油じゃなくて魚醤があったんだな。

――しょっつるですね。

小松  大豆醤油ができるのは中世で、中国からの輸入なのね。日本に大豆は野生していない。中国が大豆の栽培をよくするのは仏教からで、坊主は肉、魚が食えない。それでは蛋白質が足りないんで、最初はヒツジやウシを飼ってチーズやバターを作ってたんだ。そしたらそれも禁じられて、苦し紛れに豆腐を作る。それから大阪には鰻谷という地名があって、ここはウナギが上がって来てたんだ。江戸時代までは上流に産卵地があった。

――そんなことを調べているうちに「遷都」のイメージがわいたと(笑)。

 

 

<鰻足(蛇足ならぬ)>

ここからは、小松左京とは無関係、テキスト担当による鰻トリビアです。

ご興味ある方は、お読みいただければ幸いです。

(間違い等あれば、ご容赦のほどを)

 

 

土用と言うのは中国の古代の思想である五行説から来ています。

昔の中国では、様々なものを五つの要素にわけて考えていました。

木火土金水と言い表します。

(一週間の曜日も太陽と月に、この木火土金水を加えたもの)

 

季節や方角も、この五行を当てはめました。

木の要素は、季節で言えば、草木が芽生え始める春、色は青々と葉が繁る様子から青、方角も日が登る東。

同じように、火の要素は、季節でいえば夏、方角は南で色は赤。

金の要素は、季節でいえば秋で方角は西、色は白です。

(北原白秋の白秋も、たどれば五行説にゆきつくようです)

 

しかし、季節は春夏秋冬で四つ、五つだと一つ余ります。

実は余ったのが土の要素で、季節の中では四季の変わり目を表します。

土の要素があるから土用となるのです。

 

この季節の変わり目を古代の中国の人は土に返りやすい、すなわち人が体調を壊して  亡くなりやすい季節と考え、養生を心掛けました。

*今でも季節の変わり目には体調を壊す人が多いですよね。

 

季節の変わり目ごとの18日間が土用であり、年に4回ありますが、中でも夏の土用は土の要素が夏の火の要素で力をつけて最も恐ろしい土用と考えられました。

火に対立するのは水、五行では水は北を意味し色は黒、水の中に住む色の黒い動物言えば鰻です。

因みにウナギには元気が出るタウリンなど栄養豊富な食べ物で、家畜や獣を食べることが出来なかった当時としては、特に優れたスタミナ食でした。

鰻の血にはイクシオトキシンと言う毒性がありますが、強い火でこの毒性は消えると言います(確かに火とライバル関係にあるようです)。