『日本沈没』の田所博士は、日本が沈没する確信をつかむために、どうしても1万メートル級の深海潜水艇が必要でした。

そのため、深海潜水艇のパイロットである小野寺に「海洋国日本に、たった一隻しか1万メートル級の深海潜水艇がない!」と、己の憤りをぶつけます。

実際のところ、『日本沈没』の発表から40年余り、日本にはこれまで1万メートル級の深海有人潜水艇は一隻も存在していませんでした。

しかし、海洋大国日本の名にふさわしい、最新科学と技術の粋を集めた1万メートル級の深海潜水艇プロジェクトが、動き出そうとしています。

『日本沈没』の作中に登場する「わだつみ」の、潜水性能の1万メートルを超える深度1万2000メートルまでの潜航能力、日本の海洋資源や未知の深海生物調査、そして、『日本沈没』の「わだつみ」と同様、日本の安全にかかわる海底地殻調査に大いに活躍するであろう有人潜水調査船「しんかい12000」の建造が計画中であることは、2014年5月26日のサンケイ新聞に掲載されました。

この記事によると、海洋研究開発機構は、2023年ごろに「しんかい12000」の運用開始を目指しており、耐圧球内の機器類を小型化することで居住性を向上させ、また、「しんかい6500」では2人だった操縦者を1人にすることで、研究者が2人乗り込めることが可能になると記されています。

 

しんかい12000有人潜水調査船「しんかい12000」(イメージ図)(JAMSTEC)

 

 『日本沈没 第一章 日本海溝』より

「これは、重大なことなんだ」田所博士は、ドンとテーブルを平手でたたいていった。「きわめて重大な調査に使いたいんだ。--なんとか、優先させてもらえんだろうか?」

「さあ、ぼくには何ともいえませんが……」小野寺は、ゆうべいっしょだった吉村運営部長の顔をチラと思いうかべながらいった。「期間にもよりますが--どのくらいの期間、チャーターされたいのですか?」

「半年、あるいはそれ以上だ」田所博士は、無理は承知だ、といった頑固そうな表情でいった。「君も見たろう? われわれは、いっしょに見たろう?--あいつだ。日本海溝の海底を、徹底的に調査してみたいんだ」

「半年--」小野寺は首をふった。「それじゃ、どうにもなりません。スケジュールの合間をぬって、まわすわけにもいかないから、だいぶ先のことになりますね」

「だいたい、日本に一万メートル級の深海潜水艇が、一隻しかないというのはどういうわけだ!」田所博士はとうとうじれてどなった。「海洋国が聞いてあきれる!」